サブ課題Bの概要
現在、広く用いられている創薬アプローチは分子標的創薬と呼ばれ、単一の標的タンパク質の阻害に主眼をおいたアプローチであり、これにより多くの医薬品が開発されてきました。しかしながら、製薬業界では、この十数年、新薬の承認数が低迷しており、医薬品開発が容易なターゲット疾患のほとんどは開発し尽され、残された疾患はこれまでの創薬アプローチでは医薬品の創出が困難なものばかりだと考えられています。そこで本サブ課題では、ポスト「京」の演算能力を最大限に活かす分子シミュレーション技術を開発し、生体分子システムの時間的空間的機能解析に資する新たな計算生命科学を開拓することで、次世代の創薬アプローチを切り拓く計算技術の開発を目指します。具体的には、ポスト「京」の演算能力を最大限活かすことで、標的タンパク質の動的機能制御、タンパク質間相互作用の制御、細胞内環境やウイルス環境を標的とした創薬シミュレーションを実現します。また、生命科学における様々な実験計測手法と連携して新しい知見をもたらす解析技術へと発展させます。サブ課題Aで開発するポスト「京」に最適化したMD計算ソフトを高度に活用し、サブ課題Cで開発する統合システムへ組み込むべく、次世代創薬におけるHPC計算技術を開発します。
サブ課題B責任者
池口 満徳
サブ課題Bの主な研究開発テーマ
1.動的分子機能制御 | |
創薬標的のタンパク質などでは、動的に構造変化して機能を果たしていることがしばしばあります。そのようなタンパク質における動的分子機能の解析、および、その制御を目標とし、大規模計算を駆使した研究方法の開発を行います。 | |
・・・横浜市立大学 生命医科学研究科 池口 満徳 |
2.タンパク質間相互作用 | |
バイオ医薬品の開発で最も重要なのはアミノ酸置換よるタンパク質構造の変化を予測し望ましい機能を設計する事です。高精度FUJI力場を用いて治療標的抗原に作用する抗体医薬を設計しタンパク質間相互作用のメカニズムを明らかにします。 | |
・・・東京大学 先端科学技術研究センター 山下 雄史 |
3.ウイルス標的創薬計算技術 | |
ウイルスカプシドを含む大規模系の全原子・粗視化分子動力学シミュレーション手法を開発・整備し、ウイルス環境下での分子間相互作用や分子ダイナミクスの解析により抗ウイルス薬の作用機序を解明し、創薬への貢献を目指します。 | |
・・・名古屋大学 大学院工学研究科 篠田 渉 |
4.細胞環境標的創薬計算技術 | |
複雑に混み合った細胞環境下の大規模MDシミュレーションを展開し、受容体タンパク質における基質の競合や基質における複数受容体タンパク質の競合など、細胞内環境を考慮した創薬応用に向けた計算技術の開発を行います。 | |
・・・理化学研究所 生命機能科学研究センター 杉田 有治 |
5.核酸‐タンパク質相互作用制御 | |
細胞核内でのDNA動態の変化と遺伝子発現メカニズムの関係を調べるため、タンパク質と核酸の相互作用を定量的に計算するシミュレーション技法の開発を行います。それを用いて、原子レベルの変化がDNA動態に与える影響を調べて行きます。 | |
・・・量子科学研究技術研究開発機構 河野 秀俊 |